概要

 本症例は、幼稚園にストレスを感じた園児が、「もう行きたくない」という思いを「足を引きずる」という行為に転化させること(無意識の演技)で登園拒否を図ったという、ありがちな、ある意味分かりやすい症例です。
 
 精神科医や心療内科医が診れば、昔で言うところの身体表現性障害、最新の分類で言えば、変換症という診断が容易についたであろうケースです。

 ㇷ゚シコ系の医師でなくとも、ホリスティックな視点を持つ医療者、あるいはソフトペインを分かっている医療者が初期に介入していれば、未然に防ぐことができた症例ですが、MRI(T1強調等の操作)による疲労骨折というラベリングが泥沼への入口となりました。

 本症例に関わった医療機関の全てがハード論オンリーの現場であり、肉体次元の説明でしか患者を納得させる術がないため、重箱の隅をつつくようにして構造上の些細な変化を指摘する繰り返し…。

 正直に「分からない」と言えばいいものを…。頼みの綱とされた医療センターにあっては、染色体異常や運動過剰のない健康体の5歳児の自発痛に対して、ゴミ箱診断の極みとも言える、疲労骨折という通常あり得ないラベリングを施すことで、結果的に患児をCRPS(RSD)にさせてしまいました。

 明らかに外傷のない痛みに対するMRIの診断価値と、外傷に付随する痛みに対する同価値。この両者は等価なのか?当会のスタンスとしては、絶対に等価であるはずがない…

 しかし現実的には、MRIの画像所見を盲信して、目の前の理学所見を無視する医療者が多いということなのでしょうか?

 それともMRIの確度や特異度といった次元を分かっていながら、すなわちMRI画像はあくまでもコンピュータによる二次元変換であって、内視鏡カメラによる実映像とは違うということを踏まえつつ、これら全てを承知した上での確信犯なのでしょうか?

 いずれにせよ、運動器系の医療現場を支配するハードペイン偏向の診断哲学(画像バイアスの医療)は、数え切れないほどの罪深き症例を量産し続けています。ソフトペインという視点のない絶対医学の闇はどこまでも深い…。

 同時にグーグル症候群の闇についても、非常に考えさせられる症例です。同症候群に陥っている父親は、最初の整形外科を皮切りに、わずか3週間のあいだに5軒もの医療機関を受診し、その後もドクターショッピングを繰り返しつつ、当方が9軒目で、その後も複数の医療機関に予約を入れている状態でした。

(※)グーグル症候群とネット検索症候群の違いについては造語一覧のナ行をご覧ください。

 認知科学統合アプローチ(COSIA)や運動器プライマリケアにおいては、子供の発達個性ギフテッド型に出くわす機会があります。米国では発達個性のなかでも、とくに一芸に秀でる天才タイプ(サヴァン症候群はその最たる例)はギフテッドと呼ばれており、まさしく神から授かった特殊能力を宿した子供たちです。

 今回の講演ではそうしたギフテッドの子供が、親の異常な行動ならびにハード論偏向の医療にさらされることで、痛みの遷延化を招き、結果的にCRPS(RSD)を発症するに至った経緯について詳しく解説し、その特異な臨床像について報告しています。

 本講演の中で供覧した実際の診察場面では、本人に現状(幼稚園への不登園)について質問したところ、唐突にトイレに行きたいと言い出し、足を引きずるシーンが…。

 診察室に入ってきた時は足を引きずっていなかった患児が、自身の内面に質問が及んだ途端に「会話を拒否して足を引きずる」という行為。これはいったい何を意味するのか?

 5歳という年齢でありながら、既にブラインド・マインド(盲心)の兆候を示しており、昨今の子供たちの精神早熟について改めて深く考えさせられる症例です。

 ブラインド・マインドは過去のトラウマをきっかけにして、自身の心にブラインドを下ろす(内観を忌避する)心理機制を表す概念ですが、アレキシサイミアの次元も含め、こうした自衛的な心の働きと痛みの関係について、医療界は目を背けることなく、きちんと直視する必要があります。

参考記事→「アレキシサイミアとブラインド・マインド(盲心)の違い

 医学全体の問題として俎上に載せるためにも、絶対医学から相対医学へのシフトが待ち望まれます。

動画(①~②全35分)

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