一般に脳内の情報伝達はシナプスを介した信号のやり取りだと考えられています。 しかし、1990年代にBach-y-Ritaという研究者がNDNという新説を発表し、シナプス伝達以外の可能性を示唆しました。
NDNとはnonsynaptic diffusion neurotransmissionの略で、直訳すると「非シナプス性拡散性神経伝達」となります。 これはVolume transmission(拡散性伝達)-ホルモンにみられる液性調節と細胞外液での三次元的な信号の伝達という特徴を有し、ニューロンに依らない非シナプス性すなわち拡散性の情報伝達様式-のひとつです。
もう少し簡単に言うと、 『ある細胞から放出された化学物質(ある種の神経ホルモン)が、別の細胞表面の受容器に取り込まれることで情報が伝わる』 という考え方です。 Bach-y-Rita氏によれば、もし脳内の情報交換がすべてシナプス伝達だとすると、現在のシナプス数ではとても間に合わず、脳の体積が現状の2倍必要であり、エネルギー消費も莫大なものになり、新たな熱拡散システムが必要だと言っています。
パソコンにたとえると、スーパーコンピュータに大規模な冷却装置が必要なのと同じで、脳にもそうした装置が必要になってしまうということでしょう。
パラニューロンの働きとNDNの理論を結びつけると、深部痛の発生メカニズムは以下のように説明することができます。
『パラニューロン性の侵害受容器から放出された神経ホルモンが、血液あるいは脳脊髄液の流れに乗って痛み中枢にたどりつき、その中でより感受性が高まっている細胞の受容器に取り込まれることで生じる』
ちなみに脳脊髄液に関しては、松果体から分泌されたホルモンが第3脳室の髄液中を循環して脳下垂体に運ばれることが分かっており、神経伝達物質の輸送路になっている可能性が報告されています。
NDNの理論では細胞表面の受容体の数が増えることを up-regulation と言い、減ることを down-regulation と呼んでいます。 たとえば、痛みの感受性が高まっているCRPS(RSD)はup-regulation の状態にあり、 しびれという感覚はdown-regulation だと説明されます。