…………【関節反射ショック理論】 …………
1)関節受容器によるフィードフォワード制御
2)〈序章〉~関節機能障害と痛み~
3)〈本編①〉~肘内障の実像に迫る~
4)〈本編②〉~微小関節反射ショックと遅発性ハードペイン~

 当記事は2016年5月の旧BFI研究会(当会の前身)での講演の一部です(その後若干の軌道修正に伴い変更箇所あり)。

関節反射ショック理論 三上敦士 関節受容器 BFI研究会 国際COSIA学会 

関節反射とは何か?

 無意識下に制御される持続性の筋緊張を指して筋トーヌスと呼ばれる旨が成書に記載されているが、関節について「関節トーヌス…」という記載は見当たらない(筆者の知る限り)。

 しかし関節においても無意識下に制御される持続性の関節軟部組織の緊張すなわち「関節トーヌス」があり、これを制御する機能こそが「関節反射」と言える。

 関節トーヌスを理解するためには「関節液量の調節」および「関節内圧の制御」に関わる知見が必須であり、これらのシステムを学究することで関節反射の実像がより見えやすくなる(➡シリーズ「関節7つの精密機能)。

 その上で関節受容器によるFF制御(下図)が、ヒトの一生を通してエラーを起こさない完全無欠のシステムなのか?それとも起こし得るのか?について考えたとき、筆者は「起こし得る」というスタンス…。

フィードフォワード制御の失効(関節反射の機能不全)

 小脳の発達臨界期(0~8歳)や脳疲労を抱えている生体では、関節反射を制御する中枢機能が不安定なためフィードフォワード制御エラーが発生することがある。
 
 関節内圧および関節トーヌスを予測的かつ安定的に制御するシステムに機能不全が生じて転倒などをはじめとする外傷リスクが高まる。

脳発達過程における「臨界期」とは?
【ヒトをはじめとする高等生物の脳の発達過程において、環境や経験によって脳神経回路がとりわけ大きな影響を受ける時期を「臨界期」と呼ぶ。この時期は神経回路の書き換えが頻繁に行われるため技能習得の優位性が顕著。しかしその一方で、運動回路は未完成であるため、特殊な外力(とくに強加速度的な外力)に対しては中枢制御が不完全だと考えられる

 中枢の問題がない場合であっても、外力の性質および外力を受けた瞬間の条件次第ではフィードフォワード制御の失効は起こり得る。これは同時に関節内圧の制御エラーに直結するため、瞬間的に関節内圧が限りなくゼロに近づく現象すなわち“関節トーヌスの瞬間消失”が発生し得る。 

 外力の強さや関節肢位等の条件が重なると、関節トーヌスの瞬間消失に伴って関節包内での組織間衝突(例えば骨頭と靭帯の衝突)が発生すると同時に、その衝撃を感知した侵害受容器によるハードペインが生まれる。この現象を「関節反射ショック」と呼ぶ(BFI研究会/2016)。

【補足】
上記「外力の強さや関節肢位等の条件が重なる」とは、「一定レベルを超える加速度および“ねじれ応力”が発生した場合が最も想定され得る。とくに“ねじれ応力”は関節反射機能にとって最大のウィークポイントだと言える。

 中枢神経損傷後に見られる脊髄ショックは数週間以上持続するケースが多いが、関節反射ショックの多くは数秒以内、長くても数十秒以内にほぼ回復するという特徴がある。

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