当会フォーラムは会員サロン(外部サイト)に移設されましたが、トピックの移動ができなかったため、本ページでは旧記事の一部を保存、再現しています。

昨日一般の方から、byzouさんトピック内でのコメントに抗議する内容のメールが届きました。

5月3日のコメントにある「画像診断が正しいと信じ込まされている」とはどういうことなのか説明して欲しいというものでした。

「科学的な検査で判明する脊柱管狭窄症という診断のどこが間違っているのか、きちんと説明しなさい」という内容でした。

その批判対象になった文章は以下のとおり。

転載

…健康雑誌の表紙に「脊柱管狭窄症が〇×をして劇的に回復!」なんていう文字が躍る…。代替補完の効果を説明するのに、こんなロジックが通用するのは日本くらいです。そうではなくて、そもそも診断が間違っているから民間療法で良くなるわけで。こんな当たり前のロジックが多くの患者に響かないのは、国民がハード論の洗脳を受けて、画像診断が正しいと信じ込まされているからです…

上記に対する抗議メールが届いたわけですが、本トピックではそのメールに対する返信(回答)の一部を再現しつつ、画像診断についてお話させていただきます(ソフト論上級者にとっては今更ながらの話なので、斜め読みで構いません)。

5月3日の当該コメントは、医療者のあいだでは常識なので簡略的な表現にしましたが、一般の方にとっては、たしかに意味不明の文章だったと思われます。

当サイトは会員専用であり、掲示板についても部外者が閲覧することを想定しておりませんでしたが、閲覧制限に不備があったため、一般の方が目にする展開となりました。

これは明らかに運営側のミスであり、そのため、一部の方々に不快な思いをさせてしまったことは本当に申し訳なく思っております。謹んでお詫び申し上げます。

医療者と一般人とのあいだにある言語の壁は、昨今のPCR検査に象徴されるように相当に高いものがあります。

必須前提として、あらゆる検査につきまとう概念「感度と特異度の違い」…。これを理解している一般人はおそらく相当に少ないと思われます。「条件付き確率の問題」も同様です。

確率統計学や医療統計学という分野は、医療者のあいだでも理解レベルに相当な開きがありますので、一般人であればなおさらのこと、むつかしい世界でしょう。

正直このあたりの認識の共有がないと、画像診断の何が間違っているのか真に理解していただくことは困難と思われます。数学者の方であれば話は別ですが。

ここでは数学的な話はぜずに、分かりやすい次元で説明させていただきます。

当サイトの「造語一覧」というページで解説しているとおり、日本の医療は「病名に対して処方される薬が決まる」という診療報酬算定の仕組み、そうした背景があり、白衣ラベリングとドラッグラベリングがセットで行われています。

こうした医療現場に潜むラベリングには正の効果と負の効果があり、前者の例としては「ようやく病名が分かってホッとした症候群」すなわち「診断プラセボ効果」が分かりやすいと思います。

例えば「今までどこに行っても原因不明と言われていた症状が、ようやくその原因が分かった」と、うれし涙をこぼす患者さんのケースです。

他方、ラベリングの負の効果として、薬の副作用や離脱症候群に悩まされるケース、高齢者のポリファーマシー、やる必要のない手術を受けて悲惨な顛末を迎えるケースなどが挙げられます。

良くも悪くも、白衣ラベリング(あなたの症状の原因はこれで間違いありませんと宣言する行為)とドラッグラベリング(あなたにはこの薬が絶対に必要ですと宣言する行為)は、医療現場につきものだということです。

同時に、閉鎖系介入(この治療をしなければ助かる道はないと洗脳する行為)にも気をつける必要があります。

誰もが認めるスーパードクターが口にする場合を除き、ニッチな領域における閉鎖系介入は本当に注意すべきものがあります。

ラベリングにおける正の効果は、心理学におけるハロー効果に属するものであり、とくに日本人の場合は顕著に現れます。

少し余談になりますが、医師のことを先生と呼ぶのは、日本くらいであり(英語圏ではあくまでもドクター〇×であり、先生という言葉は使いません)、政治家や弁護士や医師に対して、皆同じく「先生」という表現を使うのは国際的に珍しい習慣です。

昭和時代の日本では、手術を受ける患者が、裏で執刀医にお金を渡すような慣習がありましたが、こうした日本人の特性は、お医者様という表現に象徴されるように、対人関係における文化的側面を表しています。

王族や貴族が関わらない状況であれば、ほとんどの関係が対等である欧米とは決定的に違う部分です。

昭和以前の日本社会には明確な上下関係を築いたほうが、或る意味、物事を進めるのが楽だという深層心理がありました。

しかし平成以降そうした心理機制を持つ人はどんどん少なくなってきています。

そういう社会心理の動向に疎い、あるいは世の中の変容にフィットできない人は、いまだに昭和の時代観を背負い続けており、そうした感性で動いています。

80代の高齢者が感じている違和感、今という時代への苛立ちの根本には、こうした社会的変容に対する抵抗感があります。

話を元に戻します。

翻って現代、昭和から根付いている白衣ラベリングは、今の若者には通用しなくなりつつあるようです。

つまりお医者様の言うことは絶対に正しいというヒューリスティック(バイアス、先入観、思い込みによる思考)に支配される人が減り始めているのです。

近いうちに、造語一覧のページに「MRIラベリング」という言葉を追加する予定です。

MRIという検査はT1強調やT2強調と言って、出力信号レベルを意図的に操作することで、白い部分を濃くしたり、黒い部分を増やしたりと、様々な画像レベルを作りだすことができます。

ちなみにMRIの仕組みを真に理解するためには、量子力学の知識が必須です。興味のある方はそちらのほうをググってください。

ここでは要点だけ簡単にお伝えします。診察現場にとってMRI検査の利点のひとつは、医療者の思惑を反映させる形で、いくらでもいろいろな画像を患者に見せる(強調する)ことができるということです。

こうした背景があるので、海外では「MRIヘルニア」と揶揄され、MRIに映し出されるヘルニア所見と患者の訴えが一致しない現象、こうした情報をほとんどの医療者が共有しています。

レッドフラッグ(危険な徴候)のない腰痛に対して、MRIを使用するのは日本だけです。

こんな医療費の無駄遣いをしている国だからこそ、食品ロス、衣類ロス、薬品ロスといった問題に対しても後ろ向きなんだと指摘されているわけです。

食品ロスで言えば、総量では世界ワースト14位ですが、国民一人当たりに換算すると世界ワースト1位レベル。「もったいない文化」とは、もはや過去の話。

1990年代にEBMが登場することで、先進諸国のほとんどが根拠やエビデンスによる見直しの一環として、整形外科領域における意味のない画像検査を削減していくなか、日本だけは、まったくそうしたリセットが行われておりません。

画像診断という白衣ラベリングが医療費の高騰に直結することは、オーストラリア政府が既に証明しています。

オーストラリア政府が実施したテレビCM(腰痛の原因は構造的問題ではないことを国民に徹底アピール)によって患者数が激減。これにより医療費削減を成し遂げた事例は典型的な白衣ラベリングのピールオフ効果だと言えます。

ピールオフ効果も当会による造語で、白衣ラベリングやドラッグラベリングが剝がされたこと(ピールオフ)による正の効果を表します。

“変形性関節症と診断された患者に、数ヶ月おきに変形が徐々に回復していく画像を見せていく(トリック)ビジュアルセラピーを施すことで最終的に痛みの消失が得られたとしたなら、この現象もまたピールオフ効果と言うことができる” <造語一覧>より

脊柱管狭窄症も全く同じです。これは何十年も前から言われ続けていることで、医療者のあいでは本当に常識中の常識…。

EBMの登場とほぼ同時期に、海外では「脊柱管の狭窄レベルと患者のしびれの程度はまったく相関しない」「MRIの脊柱管所見と患者の訴えの間に相関関係は認められない」という文言がシステマティックレビューに踊っており、高名な学者も「我々が治療すべきは患者であってMRIではない」と強烈なメッセージを残しているのです。

サドル麻痺や直腸膀胱障害のような本物の麻痺所見がある場合のみ、この診断名は正しいと言えますが、それ以外の多くは症状の原因診断として的外れだということです。

ところが「どこに行っても足のしびれが取れない」と悩んでいた患者が、MRIの洗礼を受けて、「ようやく病名が分かってホッとした症候群」に陥ると、これ以外の原因説明には一切耳を貸さなくなります。

ならば、原因診断はそのまま「脊柱管狭窄症」にしておいて、方法論のベクトルだけ変えて、「こんな体操をしたら良くなった」というストーリーを提示した方が患者への訴求力があるということで、健康雑誌はそういう内容になるわけです。

間違っても、今回のような説明、こうした文脈での記事は健康雑誌に載りません。編集長がそんな記事を許すわけがないのです。

なぜなら、このような文脈を記事にするためには、圧倒的に紙面が足りない、そして何と言っても決定的なのは「年配から高齢者を想定している読者層に対して、おそらく響かない、つまりそういう記事内容では雑誌が売れない」と判断しているせいです。

筆者はかつてエッセイストの活動や小説の執筆を手がけ、さらにゴーストライターの仕事も請け負ったことがあるので、それなりに出版業界の裏側を知っています。

年配の方向けの健康雑誌が、今回のような趣旨を記述することは、まずあり得ないと言っていい…。

筆者は10年以上に及ぶ整形での現場経験(毎日のようにレントゲン写真とにらめっこ)から、構造上の診断名と痛みの原因診断は間違いなく別のものであるという確信を持っています。

たとえば、石灰沈着性滑液包炎という診断名があります。レントゲン写真には見事な石灰沈着が白く映りこんでいますが、痛みは完全に消えたのに画像所見はそのまま、あるいは画像所見があるのに痛みがない(無症候性の石灰沈着)という症例を数多く見てきました。

まったく別の次元(その多くは脳情報処理の問題)で肩の激痛発作を起こしている人に、偶然石灰沈着が見つかると、整形のカルテには「肩関節周囲炎・石灰沈着性滑液包炎」と記載されるわけですが、あくまでも痛みの実態はソフトペインであり、こうした診断は画像ラベリングの典型例…。

ソフトペインだとする根拠は複数あって、傾聴カウンセリングによる心理分析、理学所見の矛盾(局所の熱感や発赤といった炎症反応と疼痛レベルの乖離)等々から推断することができます。

教科書を鵜呑みにする医療者にとっては、画像ラベリングの次元を理解することは容易でないかもしれませんが、認知科学を学ぶことで理解と受容が促されます。

認知科学を学ぶことによって、痛みのソフト論が認知できるようになり、さらに自身のロジカルシンキング(スロー思考)の向上に繋がります。

臨床の現実と教科書の違いに目を瞑ることなく、直視できる方は、COSIAと親和性がありますので、当会の情報をご自身の臨床にお役立てください。

今回は一般の方からのご批判にお答えする体裁で、画像診断についてお話させていただきましたが、現在作成中の一般向けサイトでは、これまで以上に分かりやすい表現、伝え方というものを追求していく一方、当サイトの閲覧制限については、よりクローズドな仕様にしてまいります。

当フォーラム(掲示板)の閲覧数は非常に多く、セミナー動画に次ぐ人気コンテンツとなっておりますが、さらにその使い勝手を向上させるべく、現在リニューアル中のnew会員サロンに引越し致します。

準備が整いましたら、全会員に向けてニュースレターが配信されますので、その内容にしたがってログインしていただければと思います。

当フォーラムは今月をもって閉鎖させていただきますが、その後は生まれ変わったnew会員サロンにおいて、引き続きお楽しみいただきますよう宜しくお願い致します。

以上です。

旧フォーラム≪目次≫
妻が帯状疱疹になって今も…
父が背部の激痛を訴え、脊椎圧迫骨折…
youtubeでミラーセラピーの動画を観て…
正会員の中に学生はいますか?
大腿骨頸部骨折の患者を見舞いに行って土下座させられたという話は本当ですか?
「気圧と人体の関係」記事について
ゲーム依存の甥っ子が肩こりで来院…傾聴は自分にはむつかしい…
PCR検査と条件付き確率について…
・「ファクトフルネス~感染症とウィルス~」を観たおかげで…
一般講演会の動画so good!…youtubeで完全公開すべきでは?
初診時劇的改善例が2回目の治療を当日キャンセル…
私はIT系企業に勤める整体師ですが…
画像診断の虚実について(一般の方からのご批判メールにお答えします)…
ブラインドマインドとアレキシサイミア(失感情症)の違いについて