当記事は掲示板の公開終了に伴うリクエスト「このトピックは是非記事コンテンツに…」にお応えする形で、一部をテキスト化したもので、DMNゲーティング理論に関する補足説明を加筆しています。
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Q以前、貴会の何かの記事で、タッチングの定義として「体性感覚刺激による脱感作と再統合」という表現があったと記憶していますが、感覚入力の部位については手指や足趾、足底に刺激を加えた方がいいように思うのですが?
あとタッピングによる振動刺激についてですが、重心動揺計の実験が示すように人には固有振動数があって、常に微妙に揺れているわけですがその振動数では不十分なのでしょうか?つまり「触れるだけ」ではダメなんでしょうか?それともやはりタッピングが欠かせないということでしょうか?
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A
たいへん長らくお待たせしました。ようやく体調(脳疲労)が回復しまして、アウトプットできる状態になりました。少々長くなりますが最後までお付き合いください。
ご質問にお答えする前に、回答趣旨のバックグランドについて少しだけお話しさせていただきます。既にご存知の内容につきましては読み飛ばしてください。可視光線の波長は360~400nm(ナノメートル)で、これを周波数に変換するとおよそ405~790THz(テラヘルツ)です(1THz=1兆Hz)。
人間の可聴域は20~20000Hz、神経細胞は主に0.5~30Hzあたりの周波数(研究対象によっては0.5Hz以下や30Hz以上も)が記録されます。
ちなみに1秒間に1回振動する現象が1Hzです。
このように音や光、そしてニューロンもすべて振動しており、これは波として記述されます。原子はそれ自体が常に振動しているので、上記3つに限らず世の中の物理現象は振動すなわち波形で表すことができます。
この波形はきれいな波(正弦波や余弦波)から非常に複雑な形状の波まで様々なものが存在しますが、どんなに不規則で複雑な波形もフーリエ解析を行うと、きれいな波に分解することができます。
反対に言えば、複雑な波はいくつものキレイな波が合わさって作られています。
こうした振動や波の性質を完全に理解するためには位相次元におけるカップリングやコヒーレンス、さらに振幅エンベロープ相関に至るまで、そして量子力学での回折や干渉(大学院物理レベル)の知識が必要になってきます。ちなみにMRIの装置には量子力学の叡智が詰まっています。
三角関数、時間相関関数、波動関数に至るまで、本当にたくさんの関数系の計算知識が前提となります。
恥ずかしながら、理工系出身でありながら私もこれらすべてを理解しているとはとうてい言えないレベルです。
強いて言えば、建築学科に在籍していた関係上、構造力学において、米国のタコマ橋の崩落で有名な共振現象(建造物の固有周期と風や地震の振動周期が一致する位相同期)に関わる力学系の知識を少々持っている程度で、大学院物理の世界には遠く及びません。
ですので、あまり偉そうなことは言えませんが、ただソフト論領域の臨床において最低限必要なニューロン振動についてはそれなりの見識があります。例えば、基本的にγ振動(γ波)優位な新皮質領域においては局所的なθ振動(θ波)が生まれており、海馬と新皮質のθ振動子のリズムが引き込み合うことで確率共振が生じて情報が伝播する等々…。
ただ勉強すればするほど、その先に分からない世界が広がっていて、答えに届きそうで届かないジレンマが…。
で、やはり臨床的にはさまざまなタイプの触覚刺激(BRein各種におけるフラクシッドタッチ、アーシングタッチ、リングタップ、プランターなど)における微振動の入力が脳内でどのような振動引き込み(エントレインメント)を経て確率共振が生じるのかというテーマが…。
また、私論の境界意識仮説におけるDMNゲーティング理論(いずれセミナーか当会記事でアウトプットする予定)すなわち「時間的結びつけ仮説(時間制御によるゲーティング)」での位相同期のメカニズムなどが、今のところ大きなテーマになっています。
DMNゲーティング理論…デフォルトモードネットワークが意識と無意識のあいだの情報伝達を制御するという自説において、STDP(スパイクタイミング依存可塑性)の原則を踏まえ、脳内振動子のような制御モデルを想定することで、ニューロン発火および神経回路の活動における同期、非同期といった相互的なタイミング制御が脳内の情報伝達をコントロールしているのではないかという私論。
脳科学における「結びつけ問題(Binding problem)」とも密接に関わってくる領域であり、ヴォルフ・ジンガーの同期理論に源泉がある。
これらの確度を高めるためには、臨床データの積み重ねと技術精度UPや適応の拡大(対象領域の広がり)とともに、インプットすべき関連書籍が山積みの状態でして、もうしばらく時間がかかりそうです…。
昨今の認知神経科学の領域においては毎月膨大な数の論文が出され、「昨日の常識は今日の非常識」というほどに驚くほどの日進月歩で新たな知見が出てきます。
当会のフィールド「総合臨床」は、脳という複雑系を相手にしているため理屈の先行には大きなリスクが伴います。
理屈(理論体系)を先に完成させてしまい、そこに縛られ過ぎると、後々革新的な知見が出た際に身動きが取れなくなります。
ディープラーニングに象徴される多層ニューラルネットワークと神経細胞ネットワークの関係のように回路系の数理モデルに偏ってしまうと、今後グリア細胞の新知見(例えばグリアアセンブリ)が従来の常識を覆したときに「あららら、そっちだったのね…」となってしまいます。
大前提としての理論的基盤は必要ですが、脳への介入に対して様々なアプローチを開発するとき、私は理屈抜きの、あえて無の境地に近い感覚(直感と換言しても差し支えない)を否定しないように心がけています。
突然のひらめき(DMNのひらめきゲートが開く瞬間)を大事にしています。
このようなスタンスがあるため、以前標榜していたBFIにおける「体性感覚刺激による脱感作と再統合」という概念も、当時の施術効果を説明すべく解釈の一つに過ぎません…。
前述したように大枠としての理論の軸は必要です。そこはブレてはいけないところですが、私が掲げる理屈はあくまでも“可能性”の次元にとどまるものです。
ただ、“表看板”にそうした赤裸々な考えを強調し過ぎると、多くの医療者は不信、不安がって入ってこれなくなります。
それでなくてもソフト論には高い認知の壁があるわけで…。
前置きが長くなりましたが、とりあえず上記のようなスタンスをご理解いただいた上で、以下の私見をお受けとめいただければと思います。
ご指摘の質問「手指や足底への刺激云々」については、おそらく関節受容器type2、パチニ小体やファーターパチニ小体など、デバイス(感覚受容器)の位置や数すなわち入力デバイス重視のスタンスからのご意見と拝察します(違っていたらごめんなさい)。
たしかに理屈として分かりやすいですよね。しかし問題は臨床の結果と、その理屈の間の整合性です。
シャアに放ったアムロの名言「それは理屈ぅぅ!」(分かる人には分かる?)、理屈は所詮理屈であり、じゃあ、現実の人間の反応はどうなのか?という視点で臨床データを総括すると、確かに四肢末端からの入力は有効な手立てですが、私の結論として「個体差が激しい」の一言に尽きます。
これは当会の定期セミナーに参加していただければ本当に納得していただけると思います。
例えばプランター(足底へのタッピング)一つとっても、会員同士でやり合ったときに、A会員は「気持ちいい!」と言い、B会員は「ああ、俺はダメだ」てな具合です。
デバイスの問題ではなく入力シグナルを受け取る側すなわち脳における情報処理の個体差の問題として評価すべきなんだと思います。
ですから、理屈先行による技術の開発や評価に重心を置くことは、私の場合ほとんどありません。
次に「固有振動数の次元を考えて触るだけではダメなのか?」については、決してダメなことはありません。例えばBReinフラクシッドタッチは本当に触れるだけの技術ですし…。
ただ、そこに固有振動数云々という理屈をセットにしてはいけないというのが私の考えです。「そこは可能性の一つとして念頭に置くくらいのスタンスでいいんじゃない?」という感じです。
先述したとおり振動や波の世界は本当に奥深く、極めて難解な世界です。これを理屈の前面に掲げるスタンスはオススメできません。とかく本筋の研究者たちから攻撃されがちなフィールドです。
定期セミナー「電気とは何か?」でも説明しておりますが、たとえば「電磁波」と臨床を絡めて説明するときも、マクスウェルの電磁気学について深い理解に達していないのであれば、電磁波について、おいそれと語るのは憚れる(ただし患者に対する便宜上の説明は負のラベリングに配慮すればOK)のと同様に、振動についても諸々の力学系や関数系を一通り分かっていないと容易に語れない領域です。
以上が私の考えです。現状のところ精度に欠く回答だったかもしれませんが、ありのままの自分の考えを披歴させていただきました。
私が真に追求するテーマ(水面下に擁する裏テーマ)についてはこちら(動画視聴ページ)で解説しておりますので是非ご視聴ください。
柔整アイデンティティ(X線やMRIのない外傷管理の限界)と整形外科の関係性、脳内振動子とSTDP(スパイクタイミング依存可塑性)の関係を含め、神経科学とブロック宇宙論の融合について私見を披露しております。