これまで提唱してきた造語の一覧表です。各項目をクリックすると説明欄が開きます(五十音順に並んでいます)。
ア行
痛みのバックドラフト -
気密性の高い空間で火災が起きた場合、室内の酸素がなくなると鎮火したような状況になるが、消防士がドアを開けて外気が入り込んだ瞬間、燃焼爆発を起こすバックドラフト。これと似たようなことが痛みの臨床でも認められる。
通院過程でペインスケール10→3という回復を示した患者が、その数日後にいきなり激痛を訴え、しかもその痛みが難治化するケース(その後しばらく10→9という状態が続いてしまう)がある。
これは患者の深層心理に不安、恐れ、葛藤などのネガティブ感情が火種としてくすぶり続けている場合に起こりやすい。これを回避あるいは予測するためにはメラビアン徴候 (マ行を参照)の見極めが一助となり得る。
インナーディフェンスとアウターディフェンス -
健康観における方法論を表す用語。インナーディフェンス(内的防衛)はマインドフルネスや瞑想の類、ファスティングを含む食生活、運動、睡眠などにおいて、自身の内なる変容(セルフアップデート)によって健康の回復、維持、向上を図ろうとする視座。
他方、アウターディフェンス(外的防衛)は医療機関での薬物処方や手術といった外部からの介入に委ねる視座。
)インプット・オリジン仮説(Input origin hypothesis -
こちらのページで解説
SDGs+M -
こちらのページで解説
カ行
回復交絡因子 -
医療における原因と結果の関係(因果律)を見極める上で交絡因子ほどむつかしものはない
。 このうち発症機序に関わるものを「発症交絡因子(本ページ内で解説)」、回復機序に関わるものを「回復交絡因子」と当会は呼んでいる。以下に分かりやすい例を紹介する。
変形性膝関節症で手術を受けることになった70代女性が直前になって手術をキャンセル。ほぼ同時に転医した別のクリニックで漢方を処方され、数週間後に完治してしまったというケース。
本人の話をよくよく聞くと、手術をキャンセルした理由は執刀医の顔が中学時代に自分をいじめた担任教師に似ていたこと、しかも苗字までいっしょだったと。さらに本人がその効果に驚いたという漢方は以前からその存在を知っていてずっと試したいと思っていたものだった。
ここまでの話で「なるほど、そういう流れね…」と結論付けるのは早計で、さらに話を聴いていくと、実は本人が改善を自覚し始めたのは手術をキャンセルする前であり、10年以上にわたってトラブル続きだった隣人が特養老人ホームに入った時期と一致していた。つまり本人が快方に向かった真の原因は隣人問題の解決だったことが臆断されたのである。
このようなケースは問診傾聴を極めない限り、決して知り得ない裏の裏の事実関係であり、こうした次元を突き詰めていくことで、回復交絡因子という存在のむつかしさを知ることになる。同時に「痛みの原因診断とは何なのか」という問いに逢着する。
「痛みの原因診断=画像診断」と信じて疑わない医療者が、こうした事実関係を視界におさめることはない。交差点において対向車線を走ってくるバイクに気づかず衝突してしまう右折事故では「運転手の眼はバイクを見ているのに脳が見ていない」というメカニズム、いわゆる非注意性盲目 であることが認知科学の実験で分かっている(見えないゴリラの実験が有名)。
先に挙げたような症例に対して「そんな重箱の隅をつつくような…」という意見がある。これに対し当会の意見は「重箱の隅ではなく、二重の下段(ニの重)すなわち底全体の話。“一の重“に目を奪われて、“二の重“があることに気づけないだけ」。
➡関連動画
確率誘導 (Stochastic induction)-
生体への介入が脳の弾塑性(elasto-plasticity)、可塑性(plasticity)、展性(malleability)などを促した結果生じる現象は確率的にしか解釈できないことを表す用語。類似の概念に確率共振(Stochastic resonance)がある。
➡関連動画
確率ヒューリスティック -
代表性ヒューリスティックの中のひとつ。例えば「…の治療効果は90%」と提示された際、「10人中9人が良くなった」と自動想起してしまう思考法で、確率に対する直感的な思考モデルを指す造語。分母が不明であるにもかかわらず自身の勝手なイメージで確率解釈をしてしまう思考法。
我々医療者にとっては上記のような確率表現はソースがRCTやメタ解析等の論文であれば、たいていは対プラセボ群との有効比率であることは周知のとおりだが、一般人の多くは確率ヒューリスティックに陥りやすい(責任の所在は情報発信者)。
認知科学で有名なモンティ・ホール問題や三囚人問題は人類が無意識に抱える確率ヒューリスティックの根深さを端的に示している。ベイズの定理を自動計算するようなヒューリスティックを持つ人類は僅少(ほとんどいない)。
条件付き確率を正しく理解していないと、PCR検査における「陽性」と「感染」の違いを認識することができない。→動画「条件付き確率とヒューリスティック~モンティホール&3囚人問題そしてPCR検査」
画像バイアス -
ヒューリスティックにおける対称性バイアスのひとつ。A→BならばB→Aという思考法(認知科学の実験においてチンパンジーはこれができないことが分かっている)。人類は自動的にこれができるため物事に対する記憶処理が円滑に進む(実生活の多くで有利に働く)。
しかし運動器の画像診断においては、レントゲン博士の発見をその黎明期に導入した医師が「痛み→変形」ならば「変形→痛み」という対照性バイアスすなわち画像バイアスに陥ることで、その後の原因診断に致命的な歪みを抱えることになった。
医学部のカリキュラム設計に認知科学が果たすべき役割は大きい。
関節反射ショック -
こちらのページで解説
境界意識 (Boundary consciousness)-
デフォルト・モード・ネットワーク(DMN)は意識と無意識をつなぐ調節弁のごとき役割を担うことで「境界意識」としての振舞いを包含するという当会の仮説。
「触る・押さえる」ことによる下行性抑制系の発現に対しては、従来のゲートコントロール理論よりも本仮説(※当ページ最下部に模式図あり)のほうが臨床との整合性が高い。すなわち信号を通すゲート開閉は脊髄後角よりもさらに中枢の脳(DMN)で行われているという見方。
→関連動画「境界意識仮説(ゲートコントロール中枢仮説)~痛みの臨床に横たわる超個体差という前提~」
Cross-modal priorityクロスモーダル・プライオリティ () -
ヒトの五感(当会はこれを互感と呼ぶ)には同時性の窓と呼ばれる時間補正の閾値があり、さらに同時入力された複数の感覚に対して、脳はあらかじめ設定されている優先順位にしたがって意識に昇らせる感覚を選ぶ。
例えば、痛み刺激と触覚が同時に入力された場合、脳は触覚を優先する。当会はこの現象を触痛覚クロスモーダル効果と呼んでいる。タッチングの除痛効果を顕す概念の一つである。
コア・ヒューリスティック -
アンガーマネジメントにおけるコア・ビリーフと同様に、個人の中でリセット不可能なほどに強固なヒューリスティックを言う。
例えばAさんが友人から「鎮痛剤は対症療法なので漫然と長期にわたって飲むべきではない」と指摘された際、「薬⇒治る」という自身のヒューリスティックを素直にリセットして「確かにその通りだ」と考えを改めることができたとする。しかしその一方で、「画像上の変形⇒痛み」という考えに対して「必ずしもそうとは言えない」と指摘された際、これに関してはどうしてもリセットすることができない(考えを修正することができない)とき、Aさんの中の「変形⇒痛み」という非常に強固な画像バイアスをコア・ヒューリスティックと言う。
これを所有する患者が画像診断を受けた場合「手術以外の介入に満足する(痛みが消える、安心する)」ことは、ほぼないと言っていい。深層心理にある変形(形態学上の問題)への恐怖心が極めて強いからである。“視覚優位の人類”ならではの認知バイアスと言える。
→動画での解説「ヒューリスティックとは何か?」(YouTubeで観る)
互感 (ごかん)(Cross sense)-
共感覚やクロスモダリティーの研究成果に象徴されるようにヒトの五感はそれぞれが個別に働いているわけではなく、相互に関連づけられた
多感覚統合 の体を成していることが分かっている。さらに近年証明された磁気覚のように意識に昇らない未知の感覚系が、五感以外にも複数潜在している可能性がある(時間知覚に関しても、当会は時覚《ときかく》と呼んでいる)。
ヒトの感覚系は視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚の5つにとどまるものではない。五感という熟語には、ヒトの感覚があかたも5種類しかないという誤解、先入観をもたらしている側面があり、実態からかけ離れた用語になっている。
認知科学による新たな知見を鑑みて、今後は五感に代わる新たな概念(用語)として、互感 という表記のほうがその実態をより的確に伝え、より正確に表していると当会は考える。
互感作用 (Cross modality)-
鏡像認知錯覚を利用した従来のミラーセラピーは視覚と運動覚のクロスモダリティだが、当会はこれに触覚刺激を組み合わせたミラータッチングを推奨している。
白く染色した赤ワインのテイスティングが狂う現象に象徴されるように人類の味覚は視覚の支配下にある。こうしたクロスモダリティの研究は痛み概念の変革を後押ししている。
当会はこうしたクロスモダリティの訳語として「互感作用」という表記を提起する。
コグニノベーション (Cogni-novation)-
認識〈cognition〉と革新〈innovation〉を融合させた造語。詳しい説明はこちらのページを参照。
サ行
CSBM (認知科学に基づく医療)-
Cognitive Science Based Medicineの略称。こちらのページで解説。
自己相反 -
個人の中で思いがねじれる現象を指す。たとえば「本当は…したいけれど、でも…できない(するわけにはいかない、してはならない)」「本当は…したくないけれど、しかし…やらねばならない」のように真の思いと決断のあいだに乖離が生じるなか、理性回路の過活動が限界を超えるとギックリ腰や四十肩の激痛発作に繋がる。このように真の思い(真情)と思考や論理が相反する状態を自己相反と呼ぶ。
心理学におけるアンビバレンスに近い概念だが、微妙な違いがある。これについてはこちらのページで詳しく解説。
スメラー -
香害の発生源になっている人。スメハラ(スメルハラスメント)をしている人を指す用語。こちらのページで解説。
スメリング -
夜行性の時代を長く過ごした哺乳類は嗅覚を発達させることで「ニオイで世界を見てきた」という進化の歴史がある。
やがて集団性を獲得した霊長類では、個体同士が互いのニオイを嗅ぎ合うことによる情報交換が定着した。ヒトにおいても無意識下で互いのニオイを確認し合うノンバーバル・コミュニケーションを行っており、これをスメリングと言う。こちらのページでも解説。
一部の医師が行っている嗅診(患者のニオイを嗅ぐことで隠れた病気を推測する手段)も、広義のスメリングに該当する。
スモラー -
スモハラ(スモークハラスメント)をしている人を指す用語。こちらのページで解説。
セクラー -
セクハラをしている人を指す用語。こちらのページで解説。
絶対医学と相対医学 -
ニュートン力学における絶対時間と絶対空間という概念はアインシュタインによって「強重力あるいは高速移動で時間が遅れる」という相対性理論に取って代わった。
高血圧に対する医療が象徴するように「個体差無視&数値管理」の現代医学は
絶対医学 とも言うべき医療哲学が軸にある。他方、個体差を重視する医療は相対医学 という概念で表すことができる。当会は脳弾塑性という個体差を前提にした概念を提唱すると同時に「絶対医学から相対医学へのシフト」の重要性を喚起する。
ソフトシグナル -
準備中。
/SBDソーシャル・ボイス ・ディスタンス(Social voice distance)-
現代人は総じて自分がいる空間(室内環境)の全体的な特徴(人の密度、話し声やBGMの反響など)を踏まえ、その状況に見合った発声をする。そのときどきの環境に応じて話し声の音量を調節している。詳しくはこちらのページ。
ソフト・ディセンス (Soft-dyssensation)-
日本では患者が訴える「しびれ」は2種類に大別される。ひとつは神経脱落症状(麻痺)であり、ひとつは錯感覚である。プライマリケアにおいては圧倒的に後者が多いのだが、錯感覚に筋力低下や萎縮が合併すると、多くの医療者が神経脱落症状という烙印を押してしまう。
しかしその実態は交感神経の機能異常に起因する局所血流変化がもたらす委縮であり、そこに脳情報処理の問題が付随した病態であって、決して神経脱落症状ではない。
神経脱落症状では痛覚の減弱や消失が認められるが、錯感覚では痛覚が併存する。換言すれば「患者がしびれを訴えても、痛覚があれば神経脱落症状ではない」ということ。こうした違いを明確にするため本用語の必要性が生じた。詳しくはこちらのページを参照。
認知の壁ソフト -
こちらのページで解説
ソフトペイン (Soft-pain)-
脳システム原性の痛み を総称した概念。『組織病変由来の生化学的な反応および体性神経伝達を介さずに 脳が生成する感覚(組織病変がないにも拘らず生成される痛みを含む)』。詳しくはこちらのページを参照。
・ソフト レジリエンス (Soft-resilience)-
脳内の構造的なレジリエンス(グリア細胞による自己回復力)をハード・レジリエンスと呼ぶのに対して、従来の心理学上のレジリエンス(逆境力・回復力)を指す用語。詳しくはこちらのページ(作成中)を参照。
ソフト論 (Soft-theory)-
脳情報処理に関わる様々な理論や概念を指す用語。脳の可塑性(当会は弾塑性と呼ぶ)、意識のハードプロブレム、意識と無意識の関係、痛みの臨床、ニューロリハ、脳科学、認知心理学、超心理学等々を包含しつつ、広義的には認知科学の視点で考察される臨床概念全般を指す。
本用語の対義語としてハード論がある。ハード論とソフト論はもとは痛みの臨床から生まれた造語である。→ソフト論/ハード論とは何か?
ハード論は「痛みは肉体的な損傷由来の入力性疼痛である(慢性痛を含め痛みの多くは侵害受容性疼痛である)すなわち痛みの大多数はハードペイン」というスタンス。
他方、後者のソフト論は「外傷や感染を除いた痛みの多くは脳由来の出力性疼痛である(慢性痛の多くは肉体の損傷とは無関係であり、形態学上の診断と痛みの原因診断は明確に切り離すべきである)すなわち痛みの大多数はソフトペインである」というスタンス。歴史的にハード論は整形外科によって強化、確立された概念であり、ソフト論の起源は痛み記憶の再生理論である。
タ行・ナ行
椎間板トランスファンクション理論( Intervertebral disc trans-functiontheory) -
こちらのページで解説
時覚(ときかく)( Time-sense)-
聴覚皮質や視覚皮質のように“時間皮質”は見つかっていないが、時間知覚の研究では時間の長さによって機能局在が異なる(1秒以下は小脳や運動野、数秒~数分は視床-皮質回路、1時間以上は視交叉上核や海馬)とされている。
当会はBReINの前後で被験者が感じる時間の長さが変化することを確認している(閉眼での10秒当てゲームの結果、回答精度の向上傾向を認めた)。これは脳弾塑性誘導によるブレノスタシスの回復がヒト時間知覚に影響を及ぼすことを示唆している。こうした時間を感じる感覚を表す概念として、当会は時覚(ときかく)を提唱している。ちなみにジャネーの法則(時間の心理的長さは年齢に反比例する)は時覚を語る上で欠かせない概念だが、脳疲労ケアはアンチエイジングと共に、もしかすると年配者における“時間の加速感(あっという間に1年が過ぎる)”を抑える効果があるかもしれない。
またリタ・カーターやベンジャミン・リベットが示したように、脳それ自体が時間の埋め合わせ(つじつま合わせ)をすべく0.5秒もの時間を遡るわけだが、この現象についても広義の時覚に含める。
(Super individual difference)超個体差 -
脳への非侵襲的な介入により確率誘導や引き込み(エントレインメント)等々がどのよう結果をもたらすのかという視点を含め、脳の情報処理性能には想像を絶するほどの個体差が潜んでいる。
これを知るべく最も分かりやすい事例はサヴァン症候群であろう。米国でギフテッドと称される天才たちを含めサヴァンのような人々に顕れる超人的な能力は人類の脳の性能差を如実に物語っている。
実はこうした脳の個体差が痛みの臨床においても深く潜在しており、これを前提に捉える臨床スタンスは極めて重要。➡セミナーでの解説動画はこちら
トップダウン回路 -
表層意識から境界意識に向かうベクトルの神経回路。意思の力によって境界意識ゲート開閉を制御する回路。分かりやすい比喩表現として「心頭滅却すれば火もまた涼し」に関わる回路(プラセボ発現にも関与)。
楽しいことや好きな趣味に集中すると痛みがやわらぐ注意転換法 (distraction therapy)やACT(acceptance and commitment therapy)などはトップダウン回路による境界意識介入の典型例。
認知心理学における「トップダウン処理」との違いは境界意識というベンチマークの有無。
➡関連動画
ドラッグ・ラベリング -
白衣ラベリングの背景に「カルテに記載される病名によって薬が処方される、すなわち症状に対してではなく、病名に対して薬が出される日本の医療制度」がある。つまり薬を出すためには絶対に病名が必要と言うこと。結果的に白衣ラベリングとドラッグ・ラベリングはセットで行われることが多い。
薬の投与が患者の心の平安(お守り安心効果)に寄与するとき、これを正のラベリングと呼び、結果的に患者にとって望ましくない依存に繋がった場合を負のラベリングと呼ぶ。
認知科学診療科もしくは認知診療科 -
将来的に痛みの治療は脳情報処理に基づく次元で統括される可能性がある。そのような未来においてはおそらくハードペインが直接の治療対象になることはない(モルヒネとプラセボの比較実験によって癌性疼痛といえども100%ハードペインでないことが既に判明している)。
今後認知科学の発展がソフトペインのメカニズム解明に拍車をかけることで、治療のフィールドは脳に収斂されていく。そのとき脳の情報処理の問題を臨床的かつ一元的に扱う診療科が創設されるかもしれない。
難治性疼痛に対する臨床経験値の高い心療内科医、総合診療医、脳神経内科医、老人内科医等々といった脳と痛みの関係に精通し、かつ最新の認知科学を学んだ臨床医が掲げる専門外来の診療科目名として、当会は認知科学診療科あるいは認知診療科という呼称を提言する。
つまりCOSIA(認知科学統合アプローチ)を実践する専門外来である。主な対象として痛みやしびれの鑑別、気分障害、発達障害、認知症等々の診断およびその治療が想定されるが、それらすべてを外来の医師が独りで担うのは現実的に不可能と思われる。
そこで診察外来とは別に、脳への非侵襲的アプローチを行う技術者の存在が不可欠となる。これを担う専門職として認知科学統合療法士(CIT)という新たな国家資格の創設に向けて当会は準備を進めている。
認知科学統合療法士 -
こちらのページで解説。
ネット検索症候群 -
インターネット依存症に対する国家的取組みが遅れている我が国にあって、難治性疼痛の患者が痛みに関わる情報を探るうちに依存状態となり、これによって脳疲労を悪化させるという悪循環を指して使われる造語。
とくに自分と同じ境遇(同じ病名)の第三者が自身の体験を書き綴るブログに共感し、その内容に振り回され、かえって悲観的になってしまうケースが増えている。この場合、本人の同意を得た上で「ネット記事を見ない」あるいは「端末を使用しない」といった対策が功を奏することがある。当然ながら本人の意思に逆らう形での強制的措置は逆効果。
似た用語に「グーグル症候群」があるが、これは自身の病状をネット検索して、病名や症状の「自己診断」を行う行為を指す。これに対し、ネット検索症候群はこうした行為がエスカレートして依存状態に陥っているケースを指す。
脳弾塑性 (Brain elasto-plasticity)-
こちらのページで解説
脳膚相関 -
胎児から乳児にける脳の発達と触覚の深い関係性、オキシトシンと脳と皮膚の関係性、有毛皮膚の毛包受容器が可聴域外の高周波を感知して脳に届ける可能性などが報告されているが、こうした脳と皮膚の密接な関係について総称する用語。
触痛覚クロスモーダル効果(痛みと触覚に対して脳は触覚を優先させる)も脳膚連関の一例。
脳免疫相関 -
準備中。
脳恒常性機能不全(BD) -
準備中。
ハ行
FF(ハイパー・ハイパー フィードフォワード)(Hyper-feedforward) -
関節反射(arthro-reflex)は小脳を介する典型的なフィードフォワード制御(→こちらのページ)だが、この回路に伴う予測制御機構が亢進している状態。
関節受容器の入力信号に対して出力系の一部(予測制御)が過敏に働いている状態と換言できる。例えば、BReINのひとつ「膝アングラクション(術者が患者の膝窩に手を挿入して天井方向に牽引する)」の際、実際の動きが誘導される前に患者が無意識にその動きを先行させてしまう(自分で膝を持ち上げてしまう)現象。
これは施術に対する患者の無意識制御全般が亢進している症例(様々な次元の情報処理が興奮しやすい過緊張タイプ)に現れやすい。
ハイブリッド・ディセンス (Hybrid-dyssensation)-
ソフト・ディセンスとハード・ディセンスの混成感覚。詳しくはこちらのページを参照。
ハイブリッドペイン (Hybrid-pain)-
ソフトペインとハードペインの混成痛。詳しくはこちらのページを参照。
発症交絡因子 -
医療における原因と結果の関係(因果律)を見極める上で交絡因子ほどむつかしものはない。このうち回復機序に関わるものを「回復交絡因子」、発症機序に関わるものを「発症交絡因子」と当会は呼んでいる。
例えば、頚痛と手のしびれや振戦を訴えて来院した40代男性(初診時の問診にて「病歴はない」と申告し、慢性的に首の痛みがあって最近は手がしびれて…という訴え)の妻から3日後に電話があり「夫は重度のアルコール依存症で入退院を繰り返している」と聞かされたケース。
この場合、医療者の判断(診断)は初診時と電話を受けた後では当然ながら違う結果になる。もし妻が連絡してこなかったなら、当初の診断の誤りには気づけないままであろう。このようによく見かける症状にさえ、実は医療者が知り得ない無数の交絡因子が潜んでいる。「患者はすべてを語らない」という格言(当会が勝手に造った文言なので正確には格言と呼べないが)を肝に銘じるべき。
後にこの男性患者の発症理由を探っていくと、仕事環境の問題、夫婦関係のストレス、親の介護問題、そして幼少期に遡ると愛着障害が、さらに遡ると発達障害の兆候が…と、様々な要因が見つかった。しかしどれがアルコール依存の真の原因なのか特定することは困難で、結局すべてが積み重なって…というありがちなソフトランディングに…。
このように単一原因論が通用しない臨床では、発症に関わる因果律としてその可能性を排除できない様々な因子が潜んでおり、これらをまとめて発症交絡因子と呼ぶ。
当会が提起する「回復交絡因子」「発症交絡因子」のいずれにおいても、痛みの臨床に限って言えば、多変量解析(重回帰分析による独立変数の抽出)によって交絡因子を除外することは極めて困難。当会がむつかしいと主張する所以である。
発達個性 -
従来の発達障害という呼称は差別や偏見といったリスクがある。最新のDSM-5では
神経発達症 という用語に代わっているが、医学的診断名とは別に簡易的に使われる場面では発達個性は当事者にとって優しい表現と思われる…。
ただし、障碍者手帳が発行される次元において、そのような方々にも発達個性という呼称がはたして適切かどうかは議論の余地がある。
追記)
2023年2月、手帳が発行済みで、かつ絶対的な支援が必要な方々に対しては発達個性という表現は適切でないという結論に達した。結果として、ごく軽度の発達障害ならびに境界例に対してのみ、発達個性という呼称が推奨される。
ハ ード・ディセンス (Hard-dyssensation)-
こちらのページを参照。
ハードペイン (Hard-pain)-
組織の障害を知らせる痛み。『組織病変由来の生化学的な反応および体性神経伝達を介して脳が生成する感覚』。詳しくはこちらのページを参照。
ハードペイン の速順応性(Fast adaptability of hard-pain)-
運動器系のハードペインの役割は損傷部位および損傷レベルを脳に知らせて、意識による判断(安静固定等の対応を選択する)を促すことにある。したがって、このシステムは短時間動作プログムとして初期設定されており、長時間にわたって持続させる設定にはなっていない。つまり運動器系のハードペインは速い順応性をもっていると解釈することができる。筆者は実際に自らを骨折させる実験を通して、これを証明している。詳しくはこちらのページを参照。
その一方で、消化器・内臓系は運動器系と違って、具体的な安静固定といった処置を取ることができないため、前述した速順応性は設定されていない。
ハード・レジリエンス (Hard-resilience)-
脳内の構造的なレジリエンス(グリア細胞による自己回復力)を指す用語。従来の心理学上のレジリエンス(逆境力・回復力)については、本造語と対比する形でソフト・レジリエンスと呼ぶ。こちらのページ(作成中)で解説。
ハード論 (Hard-theory)-
「ソフト論」の項目を参照
白衣ラベリング -
似た用語に白衣高血圧(その主体は患者)があるが、白衣ラベリングは医師が主体となって患者に影響を及ぼす行為。社会学で有名なハワードベッカーのラベリング理論や心理学で用いられるラベリング効果と区別するため、“理論”や“効果”といった語を取り除いた医療用の造語。
患者に病名を伝える行為は基本的にすべて白衣ラベリングの範疇にある。これにより患者が恩恵を受ける場合を正のラベリング、害を被る場合を負のラベリングと呼ぶ。
パワラー -
パワハラをしている人を指す用語。こちらのページで解説。
ハロー・ヒューリスティック -
心理学で有名なハロー効果(後光効果)の源泉を成す思考法。一例として「個人の開業医より大学病院や医療センターに勤める医師のほうが優秀」と考えてしまう思考が挙げられる。実際には検査や設備の優劣であって個人の力量とは別問題なのだが、ハロー・ヒューリスティック支配の強い患者ほど大病院への依存度が増す傾向にある。
また“科学”というイメージに符合しやすい電子医療系の機器に対してハロー・ヒューリスティックが働く患者はそうした機器が揃う医療機関への信頼度が増す一方で、ヒトの手によるタッチングといった手技療法の類を似非科学と見なしたり、相対的に低く評価したりする傾向がある。
ヒューリスティック・ミスリード -
社会生活においては過去の経験等に基づいて瞬時に想起する思考法(ヒューリスティック)と、時間はかかるが論理的に段階を踏む思考法(アルゴリズム)の使い分けが必要だが、医学・医療にあっては自分の中のヒューリスティックを自覚しない学者によるミスリードが繰り返されている。その典型例が椎間板ヘルニアというラベリング。
被ラベル性 -
白衣ラベリングにおいては患者側の要因としてラベリングされやすい人、反対にされにくい人といった次元の個体差がある。こうしたラベリングを受ける側の性質(性能差)を被ラベル性と呼ぶ。
心理学では他人の意見や評価に感化されやすい(暗示にかかりやすい)傾向を
被暗示性 と言うが、これを医療現場に置き換えた造語が被ラベル性である。
PtoP -
ビジネスの世界では企業対企業の売買モデルをBtoB、企業対個人の売買モデルをBtoC、個人対個人の売買モデルをCtoC(メルカリやヤフオクなど)と呼ぶ。
医療の世界において、施術概念として「フィジカル(Physical) に働きかけてフィジカル(Physical) を変える」という理念をPtoPと呼ぶ。
PtoB -
施術概念として「フィジカル(Physical)に働きかけて脳(Brain)を変える」という理念。当会が推奨するBReINの中の各アプローチ(Brein)にはPtoBが多く含まれる。→youtube動画「PtoBとは何か?」
ピールオフ効果 -
「ラベルを剥がす」の英訳が語源。ラベリングを撤回する(外す)行為をピールオフと呼ぶ。その結果が患者にとって望ましい方向に発現した場合、これをピールオフ効果と呼ぶ。負のラベリングが剥がれた場合のみを表し、正のラベリングが剥がれた場合には用いない。
オーストラリア政府が実施したテレビCM(腰痛の原因は構造的問題ではないことを国民に徹底アピール)によって患者数が激減。これにより医療費削減を成し遂げた事例は典型的な白衣ラベリングのピールオフ効果だと言える。
変形性関節症と診断された患者に、数ヶ月おきに変形が徐々に回復していく画像を見せていく(トリック)ビジュアルセラピーを施すことで最終的に痛みの消失が得られたとしたなら、この現象もまたピールオフ効果と言うことができる。
フードリング -
総合臨床における食事指導(BReINの中に位置づけられる食事療法)。詳しくはこちらのページ。
(盲心)ブラインド・マインド -
意識的あるいは無意識的に、自身の心と向き合わない心理機制を指す造語。アレキシサイミア(失感情症)との違いについてはこちらのページ。
Brein -
脳弾塑性誘導法(
Br aine lasto-plasticityin duction)の略称。BReINにおける個別アプローチ(単一のメニュー)を指す。頭文字のBを除いたスペル全てが小文字となる。
BReIN -
数十種以上のBrein(個別アプローチ)で構成される統合療法。「脳弾塑性誘導非侵襲選択的統合法(Brain elasto-plasticity induction non-invasive selective integration)」の略称。スペル中央“e”のみが小文字となる。詳しくはこちらのページ。
ブレーニング (Breining)-
BReINによる生体への介入を総称する用語。PtoBの概念と一部重複するが、主に長期にわたる脳育や脳活、さらに脳疲労ケア(継続メンテナンス)を指す場合に用いる。
狭義的には当会認定の認知科学統合療法士(BReINを修得した者)による継続的な施術行為を指すが、広義としては非侵襲的な脳ケア全般を表す。
ブレー二ング・ダイバーシティ (Breining diversity )-
複雑系の極みである脳へのアクセスは侵襲か非侵襲かの区別のほか、互感の入力、互感作用(クロスモダリティ)の観点からも非常に多種多様な介入が想定される。
このことは脳に元来備わっている自己修復プログラムや神経可塑性(この両者を併せて脳弾塑性と呼ぶ)の誘導法が多岐にわたることを物語っている。ブレ―ニングとは非侵襲的な脳ケアを指す造語であり、こうした脳を癒す手段の多様性を示す視座がブレーニング・ダイバーシティである。
ブレノスタシス (Brainostasis)-
脳はその重さにおいて体重の2%しかない臓器であるが、脳血流量は全体のおよそ20%を占め、さらに人体臓器の中でも際立って酸素欠乏に弱い、すなわちエネルギー代謝における酸素依存度が極めて高い臓器である。そのため血流の変化に極めて敏感に反応するシステムを有しており、こうした脳代謝バランスを維持する仕組みは脳恒常性維持にとって必要不可欠な系である。当会はこうした脳独自のホメオスタシスをブレノスタシスと呼ぶ。
本防衛システムにあっては脳内のおよそ10%を占める神経細胞より90%を占めるグリア細胞の役割(例…グリンパティック系)が大きいと推考されるが、広域同期性を示す神経ネットワーク群(例…DMN)も関与するというのが当会の見方。
心理社会的因子や発達障害等によって脳局所の興奮を招来しやすい脳では、代謝バランスの乱れ(失調や偏重)が断続的に生じるケースがある。この場合ブレノスタシスに過度な負担がかかり、代謝バランスの自律的回復が阻害されることがある。当会ではこの状態を“脳疲労”と定義している。
例えば発達個性の傾向を持つ子供がスマホ依存になった場合、ブレノスタシスへの影響は深刻なものがあり、脳疲労ケアという視点が極めて重要となる。
べジリエンス (Besilience)-
脳(Brain)と回復力(Resilience)を融合させた概念。脳に生来備わっている自己修復能力を総称する用語。
自律神経中枢(CAN)の疲弊→回復モデル、脳代謝産物の洗浄作用、脳卒中直後から始まるリモデリング(う回路の形成)等々、脳が独自に有するリカバリー機能全般を指す造語である。
ペインリテラシー (Pain-literacy) -
ネットリテラシーや金融リテラシーにおいては、国際的な調査によって日本人のレベルの低さが危惧されているが、痛みに対する理解度も同様に低いと言わざるを得ない
。
とくに形態学上の診断と痛みの原因診断をいまだに切り離すことができない日本においては、個人の開業医がMRIのような超高額検査機器を所有するという欧米ではあり得ない状況が患者の画像バイアスに拍車をかけている。
地域によっては増え過ぎた開業医同士で患者の奪い合いが始まっており、差別化を狙ってMRIを導入したクリニックの方向性というものは推して知るべしである。
こうした状況に対し、医療者と患者の双方にペインリテラシーを高めていく施策が求められる。利益相反はもとより医療費削減と医療産業守護という相反する二極の舵取りが求められる厚労省に期待することは憚られる。であれば、民間でやるしかない。
と開放系介入閉鎖系介入 -
患者に対して“方法論縛り”をしかける行為を閉鎖系介入と呼ぶ。分かりやすい例として、医療者が自身が行う療法を患者に説明する際「あなたの場合この治療でないと治りませんよ」「この療法以外に助かる道はありません」というやり口。心理学で有名な「偽りのジレンマ(false dilemma)」。
構造因説や単一原因論のみを伝える行為も含まれる。一部の整形外科医が口にする「このままいけば10年後には車椅子生活です(だから手術しかありません)」といった“負のラベリング”はその典型例。
これとは反対に方法論的選択の余地を与える行為については“
開放系介入 ”と表される。総合診療科の介入は基本的にこのカテゴリーに属す。当会が推奨するBReINはターゲットを脳に絞っているが多種類の介入を有する統合療法であると同時に“方法論縛りNG”としているため、“準開放系介入” にカテゴライズされる。
ボイラー -
公共の場での会話の音量(自身の声の大きさ)に関わる配慮ならびにそのマナーを「ソーシャル・ボイス・ディスタンス」と言う。こうしたマナーを守ることができずに周囲に苦痛を与える行為を「ボイス・ボリューム・ハラスメント」と呼ぶ。その当事者(加害者)を「ボイラー」と呼ぶ。詳しくはこちらのページ。
ボトムアップ回路 -
深部感覚や互感等の入力信号が境界意識に働きかける神経回路。例えばこの回路の賦活化によって境界意識での“痛みシグナルのゲート”が閉じたとき「痛みの消失」が起こる。引き込み(エントレインメント)、確率共振、確率誘導、PtoBなどに関与する。
例えばニューロリハにおいては皮膚振動刺激による麻痺の回復(知覚入力が感覚麻痺のみならず運動麻痺をも回復させる)が知られているが、これもボトムアップ回路の賦活化の一例である。ちなみに知覚入力が運動出力を変える現象は非常に意義深いものがある。
認知心理学における「ボトムアップ処理」との違いは境界意識というベンチマークの有無。
ボトムアップ消失効果(脳情報処理の空白) -
互感入力が絶たれた状況(末梢デバイスの喪失または機能低下を含む)が脳に及ぼす影響。従来のクロスモーダル可塑性を包含する。
もっとも分かりやすい例は視力を失ったヒトに見られる触覚や聴覚の感度UP(情報処理能力の向上)。
さらに完全無音室における耳鳴りの発生や幻肢における異所感覚、さらにアイソレーションタンクの五感遮断による体外離脱など。→動画での解説「脳情報処理の空白とは何か?」(YouTubeで観る)
マ行・ヤ行・ラ行・ワ行
マイクロマクロパラドックス -
ミクロな視点(例…分子生物学)とマクロな視点(例…生命現象としてのふるまい)のあいだに矛盾が生じること。例として、ある特定の遺伝子を破壊したノックアウトマウスに想定され得る障害が現れない現象。また量子力学(量子のふるまい)と一般相対性理論(重力のふるまい)のあいだにある矛盾もその典型例の一つ(量子重力理論が完成された時点で該当しなくなるが…)。
とりわけ整形外科における画像診断は最も顕著な例。例えば軟骨病変とヒトの知覚レベルが一致しない、すなわち電子顕微鏡レベルの変化が顕著であっても無痛であるケースが過半数を占める(膝OAの大規模調査でグレード3~4の重度変形の内53%が無症状であったことが判明)。
腰痛の発生率は50代をピークにして高齢になるほど減少することが知られているが、こうした骨関節の老化レベル(ミクロな組織変化)と有訴率が“正の相関”を示さない現象もまさしくマイクロマクロパラドックスの一例である。
マジョリティ・バイアス -
第2次世界大戦の戦前や戦中およびコロナ禍における日本人の特性は「同調圧力」という言葉に象徴される。これは同時に戦災や震災後における国民の団結心、粘り強い復興の原動力にもなり得るという、まさしく諸刃の剣。
こうした日本人独特の集団性はアンコンシャス・バイアスやヒューリスティックの概念で説明することができる。
従来の集団同調性バイアスや正常性バイアスといった概念とは別に、無意識下において「多数派は絶対的に正しい」「多くの人がそう言っているのなら信用できる」といった、多数意見に対する無条件の盲信、決めつけ、思い込みをマジョリティ・バイアス と呼ぶ。→こちらのページでも解説。
(コロナ禍におけるマスク常態化に潜む問題点)マスクニケーション -
認知科学の実験によって、ヒト同士のコミュニケーションには非言語コミュニケーション(ノンバーバル・コミュニケーション)が非常に重要であることが分かっている。メラビアンの法則も然ることながら無意識下で相手の感情を読み取る複雑な働きが報告されている。
すなわちAIによる微表情解析と同等か、あるいはそれに近い作業が無意識下の脳で行われているのである。
しかしマスクをしたヒト同士のコミュニケーションにあっては、相手の表情の一部しか見えないため、その働きが著しく阻害されてしまう。こうした状況は脳疲労を惹起しかねない。実際、問診傾聴を重視する診察現場にあっては、患者の気持ちを汲み取りづらくなるというストレスが生じている。医療に限らず、あらゆるサービス業に共通する問題である。
当会はコロナ禍におけるマスク同士のコミュニケーションを「マスクニケーション」と呼んで、新たなコミュ障の一つとして注意喚起するものである。
➡コロナ禍マスクニケーションが招来する社会的後遺症~マスク依存症を防ぐために~
メラビアン徴候 -
痛みの改善と患者の感情が一致しない現象を言う。たとえばペインスケールの変化において10→1と申告した患者の微表情に喜び感情がまったく現れないケース。これは患者の本心にネガティブすなわち不満、不安、恐れといった否定的な感情が渦巻いていることを含意する。
このような徴候は痛みのバックドラフトを起こす前兆として注意が必要。治療者は患者の申告(言語情報)よりも、常に非言語情報(声のトーンや話のリズム、表情の変化)に注意を払う必要がある。
言語、聴覚、視覚の情報が互いに矛盾した場合、ヒトはどの情報を優先するかを調べたメラビアンの実験が本用語の語源。その結果は7:38:55であり、非言語コミュニケーション(ノンバーバル・コミュニケーション)の優位性が示唆されている。
免疫弾性 -
「免疫力」という用語の代替表現。
ヒトの免疫機能には間違いなく“個体差”があり、これを免疫力と表現する世間一般の慣習に対して批判的な立場をとる免疫学者がいる。その理由は以下のとおり。
『免疫は自然免疫と獲得免疫に大別され、さらに獲得免疫は液性免疫と細胞性免疫に分かれるが、液性免疫以外はその能力差(強弱といった違い)を計測する術がない(数値化できない)。したがって“免疫力”なるものに学問的根拠がない』当会は脳のレジリエンスを材料力学の概念に擬えて“弾性”と呼んでいるが、免疫力なるものが科学的に定義しづらくとも、例えば生活習慣の見直しによって免疫機能が高まるかのごとく観察される現象に対して、「免疫力UP」と表現するのではなく「免疫弾性の発現」と呼ぶのはどうか?という提案である。
免疫可塑性 -
獲得免疫を表す概念。獲得免疫はいわば「記憶免疫」とも言うべきもので、特定の異物に対する攻撃システムを後天的に構築する仕組みであり、まさしく可塑性そのものである。
免疫弾塑性 -
免疫弾性および免疫可塑性は両者ともヒトの個体差を説明する上で有用性があると考えられ、これらを併せて表現するときは免疫弾塑性と呼ぶ。
新型コロナに対しては開発に時間がかかる古典的なワクチンではなく、“数十年後の未来”に登場すると目されていた遺伝子ワクチンが超爆速で開発され、先行接種されている。人類が歴史上はじめて経験する遺伝子ワクチン(ウィルスベクターワクチンや核酸ワクチン)の社会的接種について様々な観点で評価されていくであろう未来において、もしかすると免疫弾塑性という概念がクローズアップされるときが来るかもしれない。
モララー -
モラハラをしている人を指す用語。こちらのページで解説。
- ログ知覚
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ヒトの知覚システムは刺激の大きさを絶対数値的な変化として処理することはできず、変化した割合に応じた対比的な処理を行っている。
例えば板チョコの重さ10gと20gの差(+10g あるいは2倍)は誰でも分かる。このとき1000gと1010gの差(+10g)は分からないが、1000gと2000gの違い(2倍)なら分かる。
このようにヒトが「刺激強度の対比を知覚する現象」を数式で表すと、対数関数「Y=k log(X)+C」になり、「知覚強度は刺激の対数に比例する」と言い表せる(ウェーバーフェヒナーの法則)。
これは刺激が強くなればなるほど、ヒトはその違いに鈍感になることを示しており、強刺激の手技療法は感覚強度のジレンマに陥ることが明示されている。
ヒトの知覚システムにあっては、ウェーバーフェヒナーの法則にせよジャネの法則にせよ、いずれも対数関数として表せられることから、当会はこれらを総括する概念として「ロガリズム知覚」と呼んでいる。ロガリズムは“対数”の英語表記。
追記)
2023年、「ロガリズム知覚」は言いにくいので「ログ知覚」に変更。